ある患者さんとご家族との出会い
「出来るだけ家で過ごしたい」
病院から紹介いただいた癌の患者さんで、「他の病院で出来ることは無い」と言われた。入院して妻と離れることが嫌だと言うことで、訪問診療で出来るだけ家で過ごしたいということで当院が訪問診療を開始した。
「大好きな珈琲店」
最近はめっきり家から出れなくなったけれど、もともと自転車で大好きな珈琲店までいくのが日課だった。もう一度、その珈琲店に行きたいと言うのが本人さんの希望。
「訪問診療開始」
非常に趣味が多彩な方で、切り絵だったり、絵をかいたり、楽器もできて、そういった趣味の話をすごく楽しくお話してくれました。訪問診療開始当初、ベットで寝ていることが中心だったのが、次第に食事も食べれて、奥様とのだんらんの時間ももてるようになった。
「サクラ」
毎回僕たちの訪問診療を楽しみにしてくれて、同行している看護師とも非常に気さくにお話してくれる方でした。
来年は一緒に近くの川辺のサクラを見に行くことを目標にしていました。
「少しでも」
それでも、病魔というのは悲しいもので次第に眠る時間と、元気な時間が繰り返すようになり、ベットでの生活がまた増えてきました。
ご家族さんがベット周りの環境を過ごしやすくしてくれたり、当院の看護師はサクラの代わりに100均のサクラで見には行けないけれど、少しでも楽しんでもらえればと工夫もしていました。
「感謝を」
しだいに薄れゆく意識の中で、奥さんを心配させたくないという思いと、今までの感謝を言葉にしながら、奥様に手を握られる中息を引き取られました。
「珈琲」
その連絡を受けた私は、自分の趣味である珈琲豆と珈琲ミルを持って、最後の診察に伺いました。そこには、悲しみだけではなく、最後までより添えたという安堵の表情を浮かべたご家族さま。いっしょにお看取りの後、「出来立ての珈琲を作っていいですか」とお聞きしたところ、まだ一度も使っていない大好きな珈琲店の珈琲カップを出してくれました。
「部屋中に」
珈琲豆を挽きながら、ご家族といろんなお話をして部屋中に珈琲のいい香りが漂う中、最後の訪問診療を終えお家を後にしました。